南富山で始めた私たちのまちづくり  #1  studio SHUWARI Inc.代表 建築家 種昻哲

南富山で始めた私たちのまちづくり  #1  studio SHUWARI Inc.代表 建築家 種昻哲

北陸新幹線が走る富山駅から路面電車で南下すること約20分。古く使い込まれた駅舎が印象的な南富山駅周辺に広がるこのエリアは、昔懐かしいような、それでいて現代的でもあるような、新旧入り交じる独特な空気をまとっています。この連載では、そんなチグハグなまち・南富山をフィールドに「このまちだからこそできること」に挑戦する多様なプレイヤーたちをご紹介していきます。

その第一弾として、南富山で活動するクリエイティブユニット「Light & Gate」の種昻哲さん、ナミエミツヲさん、高木亮太さんにインタビューしました。

第1回目は、富山県出身の建築家であるstudio SHUWARI Inc.代表の種昻哲(しゅわり・さとし)さんです。子どもの頃、「渋谷よりイケてるまち」だと思っていた富山市は、大人になって戻ってきたとき、その姿を大きく変えていたと話します。建築を通してまちの再生に取り組む種昻さんに、自身の生い立ちや活動する中で見えてきた南富山の可能性についてお聞きしました。

富山市内の洋書店で知った「デザイン」の世界

ー早速ですが、まずは種昻さんと富山との“関係性”について教えてください。

種昻:1979年、富山県上市町の出身です。富山市内には、中学生の頃からよく買い物にでかけていて、「渋谷よりイケてるまち」だと本気で思っていました。古着屋さんが多くて活気があり、ファッションのまちという感じだった。その時から、「いつかこの場所で働きたい」と思っていましたね。

「とんでもなく可愛い」と親戚中の人気者だった幼少期の種昻さん

ー学生時代はどのように過ごしましたか?

種昻:中学生のときはバトミントン一筋でした。部長をしていて、エースと言われていました!通っていた上市中学校は、全国一位になるようなバトミントンの強豪校だったんです。

ーその中でエースはすごいですね!

種昻:でも、高校に入ってからは「なんか違うな」と思うようになり、本格的にはやっていません。高校時代は目標みたいなものがあまりなく、何となく生きていた気がします。

ーそんな中で建築の道へ進んだのはなぜだったのでしょう?

種昻:当時、富山市には新しいお店が次々とできていて、その中の一軒にデザインの洋書を扱うお店がありました。そこでデザインという仕事があることを知り、興味を持ったんです。

ーまずは、デザインへの興味だったのですね。

種昻:とはいえ何しろ田舎なので、どうすればデザインの仕事ができるのか知識を得る場所がありませんでした。中学時代の担任の先生に相談しにいったら、「とりあえずデザインの大学に行けばいいんじゃないか」と言われて(笑)。

ー(笑)。

種昻:その助言に従って名古屋造形大学に進みました。ただ、想定外だったのは、インテリアデザインを学ぶつもりで入った先が建築学科だったということです。

ー間違えて建築学科に入っちゃったんですか?

種昻:学科名が「何類」みたいな名前でわかりにくかったんです(笑)。建築というとビルを建てるようなイメージだったので最初は難しそうだなと思ったんですが、大学の旅行で安藤忠雄の特徴的な建築などを見に行ったりしているうちに、「建築も面白いかもしれない」「やってみてもいいかな」と思えました。

ー学ぶ過程で興味を持っていったのですね。

種昻:そうですね。今は、もともと好きだったインテリアと建築、両方を仕事としてやっています。

県外で働くも再び富山へ。「個人でまちを変えられる」感覚

ー大学卒業後はどんなお仕事を?

種昻:一度、富山に戻って高岡市で就職しました。その会社では学校や公衆トイレなど、公共施設の設計をしていたのですが、お堅い世界があまりしっくりこず、名古屋の空間デザインの会社に転職しました。

ーまた、県外に出たのですね。

種昻:結局、名古屋で9年働きましたね。前職とは違い、店舗や施設などのショールームをつくる会社で、柔らかな感性やセンスを問われるような仕事が肌に合っていると感じました。その後、2014年に独立して、富山市で設計事務所、studio SHUWARIを立ち上げたんです。

studio SHUWARI Inc.

ー名古屋で働き出してからも、「いつかは富山に戻ろう」というのは決めていたのですか?

種昻:決めていましたね。中学の頃、「イケてるまちだからここで働きたい」と思っていたときとは、だいぶ意味合いは変わってしまっていましたが。

ーどういうことでしょう?

種昻:そうこうしているうちに、富山市がみるみるさびれてきてしまったんです。大学時代にたまに帰省するとお店が全然なくなっていて、「憧れのまちがなくなっちゃったな……」と。

ー「もう一度、活気を取り戻したい」という想いだったのでしょうか。

種昻:路面電車は頑張って走り続けていたし、希望はあると思いました。むしろ、一回ダメになったからこそいじりがいがあるというか、個人レベルでまちを変えられる感覚があったんです。六本木のまちを変えるとなると大変だけど、富山のこの通りなら変えられるんじゃないか。そんな身近さがありました。まちをDIYしていくような感覚というか。

ーstudio SHUWARIで手がけてきた富山の建築としては、どんなものがありますか?

種昻:富山市内に個性派のお店が集まる「花水木通り」という通りがあるんですが、その中の一軒のカフェを設計しました。僕は設計をするとき、「どんなふうにまちとつながるか」という視点を意識しています。そのカフェは、建物の正面全体を開口部にして道路と一体化させることで、まちに向けて開かれていることを表現しました。

ーふらっと立ち寄りたくなりそうです。

種昻:ただ単に建物をつくるだけじゃなく、それにまつわるブランディングまで一緒に考えることも重視しています。最近はグラフィックデザイナーさんとコラボレーションすることも多いですね。

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ー建築や設計のどんなところに面白さを感じますか?

種昻:僕は人の話を聞いてデザインを考えるのが好きなんです。飲食店をつくる場合なら、話を聞きながら厨房でのその人の動きを事細かに想像し、どんな配置が使いやすいのかを考える。そうやって、周囲との共同作業の中で建物のかたちが見えてくるとワクワクします。

南富山は「実験され続けるまち」。問題であり続けることに意味がある

ー南富山に対してはどんな印象を持っていますか?

種昻:建築で言うとスケール感が独特ですよね。商店街のように細切れの区画に建物が密集していると思ったら、その脇に突然、だだっ広い敷地が現れたりする。そういうスケール感のズレみたいなのは感じますね。

ーそうしたズレもまちづくりに生かせたりするのでしょうか。

種昻:生かせると思います。南富山って、「実験され続けるまち」なのかなと思うんですよね。

ー実験ですか。

種昻:大学の授業などで何年も何年も調査され続けて、ずっと何かしら問題だと指摘され続けるまちというか(笑)。でも僕は、問題であり続けることで、実験の場として機能することに意味があると思うんです。それが南富山らしさなんじゃないかって。

ー面白い視点ですね。

種昻:まちの風景って、見方しだいでガラッと変わったりもしますよね。実用性のない建物がひとつのアートに見えたり、何の変哲もない構造物にユニークなポイントを見出したり、古びた街並みが可愛く思えてきたり……そんなふうに別の角度からまちを再発見していけるといいなと思っています。

ー視点のズラし方もポイントになりそうですね。最後に、これから南富山をどんなまちにしていきたいかを教えてください!

種昻:イベントなどで一時的に大勢の人を集めるというよりは、いろいろなお店があって、日常的にまちに人がいるほうが理想的な姿だと思っています。

独立する前、県外のあるまちで居酒屋さんを一軒、デザインしたことがありました。そこは駅前に誰も人がいないような場所だったのですが、その居酒屋ができて大繁盛したことで、駅前に人通りが戻ったんです。それをきっかけに「実はこんなに人がいたんだ!」とみんなが気づいて、個人店がみるみる増え始めた。まちが変わるってこういうことなんだと実感しました。南富山でもそういう最初の一軒に関われたらと思っています。

ーそんなふうにまちが変わっていく姿を想像するとワクワクしますね。

種昻:僕は集客したり、人を巻き込んだりするのはあまり得意ではありませんが、アイデアを出したり、人の話を聞いて何かをかたちにしていくのは得意です。南富山に関わる人たちとたくさん言葉を交わしながら、今まで見たこともないようなものをつくることに全力を注いでいきたいです。

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